今回は、名詞の格と名詞につく定冠詞について学びます。
とてもややこしいです。でも、これが理解できないと、この後はもう何もわからなくなります。しっかり勉強しましょう。
格について
「格」ってなんでしょう? 日本語では「あいつは別格だ」とか、「この前の奴とは格が違う」とか、「今度は格下の相手との対戦だ」などと使いますね。上下の位置を示すために「格」という言葉が使われます。辞書では、「地位、身分」などと説明されています。
ドイツ語の場合の「格」とは、名詞などが文の中で果たす役割のことをいいます。その名詞が文中でどんな「地位」にあるのか、主語になっているのか、目的語になっているのかということです。
と言われてもよくわかりませんね。具体的な文で見てみましょう。
- Der Mann ist groß. (その男は背が高い。)
- Das Haus des Mannes ist groß. (その男の家は大きい。)
- Ich gebe dem Mann das Buch. (私はその男にその本をあげます。)
- Kennen Sie den Mann? (あなたはその男を知っていますか?)
最初の文、<der>はMannという男性名詞につく定冠詞でしたね。
ここでのder Mannは文全体の主語になっています。こんなふうに主語なっている名詞を1格の名詞といいます。
2つ目の文では、des Mannesは「その男の」という意味で、直前にあるdas Hausに後ろからかかっています。「その男の家」です。こんなふうに、所有を示す場合は2格と呼びます。
3つ目の文では、dem Mannは「その男に」という意味です。こんなふうに「~に」となる語を英語では間接目的語と言いましたね。ドイツ語では3格と呼びます。
4つ目の文では、den Mannは「その男を」となっています。これは英語では直接目的語と呼んでいました。ドイツ語では4格です。
der Mann → その男は → 主格 → 1格
des Mannes → その男の → 所有格 → 2格
dem Mann → その男に → 目的格 → 3格
den Mann → その男を → 目的格 → 4格
何のことはない、英語で主格、所有格、目的格と呼んでいたものを、ドイツ語では数字を使って、1格、2格、3格、4格と呼んでいるのです。英語では間接目的語と直接目的語を一括して目的格と呼んでいましたが、ドイツ語では3格、4格と区別します。
「その男、家、大きい」でもだいたい意味は通じます。でも、「家、その男、大きい」ではどうでしょうか。大きいのは「家」なのか、「その男」なのか、ちょっとあいまいになります。そこで日本語では「は」「の」などの助詞を使って、「その男の家は大きい」と表現します。大きいのは「家」であることがはっきりします。
でも、ドイツ語には助詞がありません。文章の中で何が主語で、どの語が所有を表しているのかがわかりません。それをはっきりさせるために、ドイツ語では名詞と定冠詞の形を変えるのです。でも名詞の変化はMannesだけでほかは変化しません。それで名詞につく定冠詞によって主語なのかどうかなどを区別しています。
der Mannと言ったら「その男は」と主語になり、des Mannesと言ったら、「その男の」と所有を表すのです。
だから、1格、2格、3格、4格とは、だいたい「は、の、に、を」のことだと思っておけばいいでしょう。
以前、男性名詞にはderという定冠詞がつくと言いました。ここでちょっと修正しておきましょう。男性名詞の1格にはderがつきます。でも、2格にはdesが、3格にはdemが、4格にはdenがつきます。derが、<der、des、dem、den>と格変化するとも言えます。
名詞と定冠詞の格変化
上で、男性名詞の場合を見ました。女性名詞、中性名詞、複数の名詞の場合はどうなるでしょう。一括して表で示します。
すごいですね。女性名詞の場合は、die Frau(その女性は)、der Frau(その女性の)、der Frau(その女性に)、die Frau(その女性を)となります。Mannesのように名詞自体が変化することはありません。
「その女性は」と「その女性を」(いずれもdie Frau)、それに「その女性の」と「その女性に」(いずれもder Frau)が同じですが、文の中に置かれれば混乱することはありません。男性名詞のようにどうせなら全部違ってくれればいいのに、とも思いますが、そうなっていないので仕方がありません。
中性名詞では、名詞自体が2格でKindesとなります。Mannesと同じように<-es>がついています。定冠詞だけを見れば、das、des、dem、dasです。
複数名詞では、定冠詞はdie、der、den、dieで、女性名詞の場合と似ていますね。複数の3格で名詞自体が変化し、<-n>がついています。den Kindernと韻を踏んでいます。この方が発音しやすいからこうなったのでしょう。
もう一度ざっと表を見渡してみれば、名詞自体が変化するのは男性の2格と中性の2格、それに複数の3格です。それ以外は変化していません。
男性名詞の2格と中性名詞の2格には、ここでは<-es>がついていますが、<-s>がつく場合もあります。どちらでもいいのですが、習慣的に、例えばMannの場合なら、MannsよりもMannesを使います。
いくつか例文を見てみましょう。
- Die Männer sind alt. (その男たちは年取っている。)
- Die Mutter der Kinder sind jung. (その子供たちの母親は若い。)
- Ich danke den Frauen. (私はその女性たちに感謝します。)
- Ich kenne das Kind. (私はその子供を知っている。)
最初の文:Männerは、Mannの複数形です。複数形で主語になっていますから、dieがついています。
二つ目の文:文の主語はMutter(母親)です。これが1格です。女性名詞の1格にはdieをつけます。Kinderは2格です。複数の2格ですから、derをつけます。
三つ目の文:FrauenはFrauの複数形です。「女性たちに」と3格になっていますから、denをつけます。なお、Frauenは<n>で終わっていますから、改めて<n>をつけることはしません。
四つ目の文:「その子供を」ですから4格です。Kindは中性名詞ですから、dasとなります。
覚えましょう
英語の場合、定冠詞はtheだけでした。それと比べるとドイツ語の定冠詞は複雑怪奇です。derがつくか、demがつくかで意味が違ってしまいます。der Mannは「その男は」ですが、dem Mannなら「その男に」です。
つまり、定冠詞を間違えないようにつけないと、ちゃんと意味が伝わらないのです。ということで上の変化表の中の定冠詞の形はもう徹底的に覚えておかなくてはなりません。
どうするのでしょうか。
定冠詞だけを取り出してみます。
これをにらみながら、ひたすら<デア、デス、デム、デン><ディー、デア、デア、ディー><ダス、デス、デム、ダス><ディー、デア、デン、ディー>とつぶやいてください。お経でも唱えるように、闇雲に。
ゆっくりではなく、早口でつぶやくほうが覚えやすいようですよ。
練習問題
正しい定冠詞を入れましょう。
- Kind Japaners ist noch klein.
その日本人の子供はまだ小さい。 - Bruder Japanerin ist Student.
その日本人女性の弟は学生だ。 - Tisch (m) Studentin ist groß.
その女子学生の机は大きい。 - Tasse (f) Lehrers ist neu.
その先生のカップは新しい。 - Er dankt Vater Japaners.
彼はその日本人男性の父親に感謝する。 - Sie dankt Mutter Freundes.
彼女はその男友達の母親に感謝する。 - Ich kenne Bruder Studentin.
私はその女子学生の兄を知っている。
まとめ
今日は格について学びました。ドイツ語では、助詞ではなく定冠詞によって、その名詞が文の中でどういう働きをしているのか(主語になっているのかなど)を区別するんでした。
<デア、デス、デム、デン>ですが、これこそドイツ語の別名と言っても過言ではありません。みなさんもいつか電車の中で隣り合わせた年長の人と話すことがあるかもしれません。その人が、あなたが大学生であり、第2外国語としてドイツ語を学んでいることを知ると、そしてその人もかつてドイツ語を習ったことがあるならば、必ずや「ああ、なつかしいなあ、デア、デス、デム、デンか」とつぶやくはずです。ドイツ語を学んだ人が、他のことはすべて忘れても、最後まで忘れないのがこの<デア、デス、デム、デン>なのです。
練習問題解答
- Das Kind des Japaners ist noch klein.
- Der Bruder der Japanerin ist Student.
- Der Tisch (m) der Studentin ist groß.
- Die Tasse (f) des Lehrers ist neu.
- Er dankt dem Vater des Japaners.
- Sie dankt der Mutter des Freundes.
- Ich kenne den Bruder der Studentin.
どうでしょうか。正しい定冠詞を入れられましたか?
まず、名詞の性が何なのかを調べます。次のその名詞が文中で主語になっているか、目的語になっているかなどを考えます。つまり、何格かを考えます。
3番のTischや4番のTasseの名詞の性がわからないと、どんな定冠詞をつけたらいいのかわかりませんから、まずはそれを調べます。それから文中でのそれぞれの語の役割を考えます。
3番のTischは男性名詞で、ここでは1格ですね。Studentinは女性名詞で、ここでは2格です。それで、「その女子学生の机は」は、<der Tisch der STudentin>となります。
何て大変なんだ、と驚くかもしれませんが、慣れればそうでもありません。それに、文を作るときにはどの定冠詞をつけたらいいか苦労しますが、文を訳すときには定冠詞がderであろうが、denであろうが、それが定冠詞だとわかっていればだいたい意味がわかるものです。
少しずつ慣れていきましょう。