今回は形容詞の名詞化について学びます。名詞化された形容詞は人を表す場合と物や事を表す場合があります。
人を表す場合
特定の人を表す
形容詞が名詞を修飾するときは、語尾がつくんでしたね。krank(病気の)という形容詞を使って例を挙げましょう。
der kranke Mann (その病気の男性は)
die kranke Frau (その病気の女性は)
die kranken Leute (その病気の人々は)
こうなります。ここで、Mann、Frau、Leuteなどの名詞を省略して同じことを言い表すことができます。
der Kranke (その病気の男性は)
die Kranke (その病気の女性は)
die Kranken (その病気の人々は)
形容詞の語頭を大文字にします。形容詞の語尾変化を残します。これを形容詞の名詞化といいます。
ドイツ語では、derがついていれば男性、dieがついていれば女性を表しますから、わざわざ名詞を書かなくても、どれが男性でどれが女性なのかをすぐにわかりますからね。
die Krankeとdie Krankenは定冠詞が同じなので、ちょっと戸惑いますが、-enがついているのは複数名詞の場合だったことを思い出すと、区別できます。
不特定の人を表す
上の例では定冠詞がついていました。「その」と特定の人を表しています。今度は不定冠詞がついたり、冠詞がついてなかったりして不特定の人を表す場合を見てみましょう。
ein kranker Mann (一人の病気の男性は)
eine kranke Frau (一人の病気の女性は)
kranke Leute (病気の人々は)
名詞化すると、それぞれ、
ein Kranker (一人の病気の男性は)
eine Kranke (一人の病気の女性は)
Kranke (病気の人々は)
となります。やはり変化語尾を残しています。-erという語尾がついていると、男性であることがわかります。女性の場合は、eineで女性であることがわかります。
複数形の場合は不定冠詞はつきません。-eしかつかないので簡単すぎてちょっとびっくりしますが、これで名詞化されています。
形容詞が大文字になっていて、なんか変化語尾のようなのが後ろにくっついていれば名詞になっているんだな、と思って下さい。
なお、かつての日本の医者たちは、患者のことを隠語のように「クランケ」と呼んでいました。これはドイツ語のKrankeから来ていたんですね。いちいち語尾変化させるのも大変なので、すべてクランケで通していたのでしょう。
よく使われる名詞化された形容詞
名詞化された形容詞でよく使われるものがあります。これは辞書にも登録されています。
Erwachsene (大人)
Jugendliche (若者)
Deutsche (ドイツ人)
Verwandte (親戚)
Bekannte (知人)
Angestellte (会社員)
これらは辞書では複数形の形で示されます。しかし、実際に使う場合には、普通の形容詞と同じように語尾がいろいろと変わります。
der Erwachsene (その大人は)
den Erwachsenen (その大人を)
ein Deutscher (一人のドイツ人男性は)
einen Deutschen (一人のドイツ人男性を)
練習問題1
名詞化された形容詞に注意して、訳しましょう。
- Sie sind meine Verwandten.
- Das ist ein Bekannter von mir.
- Die Fleißige kommt jeden Tag zur Bibliothek.
- Der Alte schreibt E-Mails an seine Verwandten.
- Nur Erwachsene dürfen diesen Film sehen.
物や事を表す場合
中性の定冠詞dasをつけたり、中性の変化語尾-esをつけると、「もの」や「こと」を表すことができます。
das Neue (その新しいこと)
Neues (新しいこと)
etwas Neues (何か新しいこと)
最初のdas Neueは、neu(新しい)という形容詞にdasがついて大文字となり、変化語尾-eを持っています。定冠詞がついているので、特定の「新しいこと」です。
2つ目は、定冠詞がないので、不特定の「新しいこと」です。この場合、etwas(何かあるもの)を前にくっつけることが多いです。
- Gibt es etwas Neues in der Zeitung?
(新聞に何か新しいことは載っていますか?) - Nein, nichts Neues.
(いや、新しいことは何もないよ。)
nichts Neuesはetwas Neuesの否定となっています。「新しいことは何もない」です。
etwas Neuesというと、英語のsomething newと同じ語順になります。でも、英語のnewは形容詞ですが、ドイツ語のNeuesは名詞です。ドイツ語の方は、etwasとNeuesが同格で並んでいます。英語の場合、newが後ろに来ているのはフランス語の影響です。
中性名詞化された形容詞の例
etwas Gutes (何かよいこと)
etwas Schönes (何かすてきなこと)
etwas Interessantes (何か興味深いこと)
etwas Besonderes (何か特別なこと)
中性名詞化された形容詞は、das Neueのような定冠詞のついた形よりも、こんな形でよく使います。
練習問題2
名詞化された形容詞に注意して訳しましょう。
- Ich möchte etwas Leckeres essen.
- Der Deutsche erzählt uns immer etwas Lustiges.
- Haben Sie heute Abend etwas Besonderes vor?
- Vielleicht finden wir etwas Billiges.
- Alles hat sein Gutes und Schlechtes.
- Unter der Sonne geschieht nichts Neues.
まとめ
今回は形容詞の名詞化について学びました。
語尾変化は面倒ですが、形容詞を大文字にして好きなように名詞にすることができるのはとても便利です。
文を見たとき、これはひょっとして形容詞が名詞化されているのではないか、と気づくだけでも十分です。
練習問題解答
練習問題1
- 彼らは私の親戚たちです。
- これは私の知人の一人(男性)です。
- その勤勉な女性は毎日図書館に来ます。
- その老人(男性)は自分の親戚たちに宛ててメールを書きます。
- 大人だけがこの映画を見ることができます。
練習問題2
- 私は何かおいしいものを食べたい。
- そのドイツ人男性は、私たちにいつも何か愉快なことを話す。
- あなたは今晩、何か特別なことを予定していますか?
- ひょっとしたら安いものが見つかるかも。
- すべてはよい面と悪い面を持っている。
- 太陽の下(もと)、新しいものは何ひとつない。
1番:lecker(おいしい)という形容詞の名詞化。
2番:lustig(愉快な)という形容詞の名詞化。
3番:besonder(特別の)という形容詞の名詞化。
4番:billig(安い)という形容詞の名詞化。
5番:どんなことにも二面があるということです。sein(その)はallesを受けています。
6番:旧約聖書の「コヘレトの言葉」です。ここに挙げたのは新共同訳。文語訳では、「日の下(もと)に新しきものなし」と訳されていました。こっちの方がかっこいいですね。聖書ではこの文の前に、「かつてあったことは、これからもあり/かつて起こったことは、これからも起こる」と書かれています。「コヘレトの言葉」冒頭にある「すべては空(むな)しい」につながっていきます。