ドイツ語の人称代名詞を見てみましょう。英語と比べてどうでしょうか。
主語になる人称代名詞
単数の人称代名詞には次のようなものがあります。- ich(イッヒ):私は(I)
- du(ドゥー):君は(you)
- er(エァ) :彼は(he)
- sie(ズィー):彼女は(she)
- es(エス) :それは(it)
複数の人称代名詞は次のようになります。
- wir(ヴィア):私たちは(we)
- ihr(イーァ) :君たちは(you)
- sie(ズィー) :彼らは、彼女らは、それらは(they)
「彼女は」と「彼らは、彼女らは、それらは」が同じ<sie>なので、ちょっと混乱しますね。「別々だったら覚えやすいのに」って思いますが、残念ながらそうはなっていません。
duとihrのほかに、もう一つ2人称があります。
- Sie(ズィー):あなたは、あなたがたは(you)
大文字の<Sie>は、単数の場合もあれば、複数の場合もあります。単数と複数が同じ形です。
2人称が2種類あるなんて、英語しか学んでいないとちょっと驚くかもしれません。
<Sie>を「敬称の2人称」と言います。それに対して、duとihrの方は「親称の2人称」と言います。
人称代名詞全体をまとめると次のようになります。
敬称の2人称と親称の2人称の使い分け
敬称の2人称<Sie>と親称の2人称<du, ihr>はどのように使い分けるのでしょうか。
- 敬称の2人称……見知らぬ人と。一般的な社会関係で。
- 親称の2人称……家族内で。親友同士、恋人同士で。学生同士で。
つまり、<Sie>はていねいな言葉づかいが必要なとき、<du, ihr>は親しい関係にあるときに使います。日本語で言えば、「ですます」調といわゆる「ため口」の違いでしょうか。ただし、学生同士の場合は、見知らぬ相手でも最初からいきなり<du, ihr>で話しかけます。同じ学生同士という気安さからです。
<Sie>や<du, ihr>は相互的です。<Sie>を使うときはお互いが<Sie>を使います。<du>を使うときはお互いが<du>を使います。年下の人が年上の人に向かって<Sie>を使い、年上の人が年下の者に<du>で話すことはありません。
学生の場合は、ドイツ人の学生に対していきなり<du>で話しかけてかまいません。ただし、それ以外の大人には<Sie>を使いましょう。
日本人の大人がドイツ人に話しかけるときには、まず<Sie>を使いましょう。ドイツ人学生に対しても同様です。付き合いが長くなり、親しくなったら<du>に移行することがあるかもしれません。
まとめ
今回は、ドイツ語の人称代名詞を概観しました。一度に覚えられなくても、まずは、<ich>(私は)、<du>(君は)、<Sie>(あなたは)あたりを覚えておきましょう。
<du>は親称の2人称で、<Sie>は敬称の2人称でしたね。<du>については一応「君は」と訳すことに、<Sie>については「あなたは」と訳すことにしておきましょう。実際には、状況に応じてさまざまに訳し分けなければならないのですが、とりあえずそう決めておきます。
「英語と違って、2人称が二つあって複雑だな」と思ったでしょうか。2人称が二種類あると知ったあるイギリス人は、「便利ですね」と言いました。何も考えずに<Sie>と<du>で単純に分ければいいからです。<you>しかないと、ていねいな表現が必要なとき、表現の仕方をいろいろ工夫しなければならないから面倒だと言うのです。なるほど、と納得するところがありました。